先日、新聞に気になるニュースが載っていました。
今まで優遇されていた退職金への課税を見直すというものです。
退職金への税金が増えて手取りが減るということですか?不利益な変更はやめてほしいです! 不利益な変更になるかはまだわからないのよ。だけど、長く働いた人が優遇されていたしくみは変えようとしているようね。
勤務期間が長いほど有利な退職金課税のしくみは年金への課税にも応用されており、確定拠出年金の受け取り方が分割ではなくまとめてもらう方式に偏る要因になっている。(日本経済新聞2019/10/2 甘利自民税調会長「働き方による差是正」、退職金課税の見直し議論)
そもそも退職所得って何?
退職金は税法上「退職所得」に分類されます。
会社を辞めた時の退職金だけでなく、iDeCoを一時金で受け取る場合なども退職所得になります。
所得税は給与所得や利子所得などを合計したものに税率をかける総合課税が原則です。
けれども、退職所得は総合課税の所得とは別に退職所得だけで税金を計算する分離課税という方式が採用されています。
退職所得控除
退職金にはどのくらい所得税がかかるのでしょうか?
退職金にかかる所得税額 = 課税退職所得金額×所得税率-控除額
課税退職所得金額 = (退職所得の収入金額 - 退職所得控除額) × 1/2
退職所得控除は以下のように勤続年数で変わります。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円 × 勤続年数 (80万円に満たない場合には、80万円) |
20年超 | 800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年) |
退職金支給額が1000万円・勤続年数10年2カ月の場合
まず、退職所得控除は20年以下なので計算式は
40万円×11年(勤続年数は切り上げ)= 440万円
となります。続いて、課税退職所得金額は
(1000万円-440万円)× 1/2 = 280万円
退職金の所得税は以下の A × B - C で求められます。
A.退職所得金額 | B.税率 | C.控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
課税退職所得金額280万円 × 所得税率10% - 控除額9.75万円 = 18.25万円
この所得税に復興特別所得税2.1%がかかります。
退職金支給額が1000万円・勤続年数29年2カ月の場合
まず、退職所得控除は20年超なので計算式は
800万円 +70万円×10年(勤続年数は切り上げ)=1500万円
となります。続いて、課税退職所得金額は
(1000万円-1500万円)×1/2=0円
退職所得金額が0になったので所得税も0になります。 同じ1000万円の退職金でも勤続年数が長くなると退職所得控除が増えて所得税が安くなるのよ。退職金は大切な老後の資金と考えらていたから、長く働いた人が多く受け取れるようになっていたの。
iDeCoを一時金で受け取った場合の所得税は?
では、iDeCoを一時金で受け取った場合の所得税を計算してみましょう。
次のような条件で考えてみます。
積立て開始年齢 | 30歳 |
---|---|
積立期間 | 30年 |
毎月の積立金額 | 2万円 |
想定利回り | 年3.0% |
最終積立て金額 | 約1165万円 |
iDeCoの場合、積立て期間を勤続年数と考えます。
退職所得控除は20年超なので計算式は
800万円 +70万円×10年 = 1500万円
となります。続いて、課税退職所得金額は
(1165万円-1500万円)×1/2=0円
退職所得金額が0になったので所得税も0になります。
なるほど。一時金で受け取れば税金がかからなかったり、かかっても少しですむなら一時金受取りを選ぶ人が多くなりますよね。
でも、iDeCoは確定拠出年金なので本来は年金形式で受け取るべきと政府は考えているのかも。それも退職所得の課税の仕方を変えようとしている原因の一つのようね。
iDeCoを年金で受け取った場合の所得税は?
iDeCoの受け取り方には一時金と年金、そして一時金と年金の併用があります。
ここでは年金での受け取りについて考えます。
受け取ったお金から、「公的年金等控除額」とを差し引いた金額が「雑所得」として扱われることになります。
公的年金等に係る雑所得=公的年金等の総収入金額-公的年金等控除額
この「公的年金等の総収入金額」には、iDeCoだけでなく国民年金や厚生年金などの公的年金の収入も含まれます。
総収入金額が多くなると引かれる税金も多くなるので、受け取り方に注意が必要です。
仮に収入が公的年金とiDeCoだけの場合、
65歳未満 108万円(基礎控除38万円+公的年金等控除額 70万円)
65歳以上 158万円(基礎控除38万円+公的年金等控除額120万円)
までは非課税で受け取れます。
おススメのiDeCoの受け取り方
公的年金を70歳まで繰り下げる
国民年金も厚生年金も受給開始を遅らせるとひと月ごとに0.7%ずつ増額され、増額は生涯続きます。
もし、年金の受給開始を最大の70歳に繰り下げると受け取れる年金額は42%増額されます。
仮に年金年額120万円なら約170万円を生涯に渡り確保することができるのです。
これなら、一生最低限の生活費に困ることはなさそうです。
繰り下げ期間中の生活費をiDeCoで
公的年金を繰り下げた場合の繰り下げ期間中の生活費について考えます。
繰り下げた年金年額が170万円の場合、5年間で約850万円が必要と考えます。
この不足分をiDeCoの積立金で補います(確定拠出年金企業型のある会社にお勤めの方は企業型も同様に活用できます)。
先ほどの30年間積み立てた事例で1165万円の資産がありますので、これを充てることができます。
公的年金とiDeCoを同時に受け取らなければ課税される金額も少なく済みますので、おトクです。
iDeCoを年金形式で受け取ると積み立てている資産は運用し続けることになるの。お金を受け取りながら増やすこともできるので、その点でもおススメなのよ。